ヴァンパイア夜曲


その時、プツ…、と軍服の詰襟のボタンを外した兄。

そして、意図が分からず戸惑うエリザに、シャツの襟元を緩めた彼は真剣な瞳で囁いた。


「俺の血を飲め。そのままじゃ、出欠多量でスティグマになる」


思わぬ言葉に、目を見開くエリザ。

動揺が隠しきれない彼女は、ぐいとルヴァーノを押しのけた。


「そんなこと出来ません!上官に牙を突き立てるなんて…!」


「医者の前で死ぬつもりか?これは応急処置だ。少しでも純血を飲めば楽になる。傷の治りも早いだろ」


「ですが……!」


弱々しく揺れるエリザの薔薇色の瞳。

このままでは危ない。それは本人もわかっていた。しかし、理性と忠誠心が邪魔をして踏ん切りがつかない。

躊躇している間に流れる血。彼女の負った傷は、想像以上に深かった。

その時、小さく息を吐いたルヴァーノは、わずかに目を細める。そして、素早く軍服の袖を捲ると、自らの腕に牙を突き立てた。


「っ!団長…!?」


と、エリザが思わず声をあげた瞬間。

有無も言わさず、ルヴァーノはエリザの口を塞いだ。


「んんっ……!!」


こくりと音を立てるエリザの喉。

重なった唇の間から、深紅の血が流れた。

声も出せずに見つめていると、やがて彼女は、くたっと意識を失う。小さな呼吸とともに離れたルヴァーノは無言でわずかに目を細め、唇の血を指で拭った。