言葉を発する余裕もなく走る。
足を止めれば、確実に標的にされてしまうのだ。
足音の合間にシドが背後に拳銃を向け、パァン!と引き金を引く音が響く。
こちらに追いつこうとする足の速いスティグマから順に倒れていくが、まだ全てを仕留めきるのは難しい。
「ここだ!右に逸れろ!」
ルヴァーノの指示にとっさに角を曲がる。
扉が空いていた部屋に逃げ込むと同時に、シドが胸元から取り出した手榴弾のピンを口で抜いた。
閉めた扉の向こうから低く響く爆発音。
はぁ、はぁ、と上がる呼吸。
しぃんと静まり返った廊下から察するに、どうやら追っ手は撒いたらしい。
へた…っと、思わず床に座り込むと、兄の腕の中から小さなうめき声が聞こえた。
床に落ちる赤い雫。
エリザの肩から流れる血が、ルヴァーノの白い軍服を染めていく。
「エリザさん…!」
青ざめて彼女の名を呼ぶと、エリザは弱々しく微笑む。
「平気よ。…今度は、貴方を守れてよかった…」
「!」
『ごめんなさい。貴方を守りきれなかった』
脳裏をよぎるのは、サザラントの広場で私がローガスに襲われた光景。
あの時エリザが見せた後悔の表情が、ふっと頭の中に蘇る。



