視線の先に映るのは、異質な色だ。

真っ白な銀世界に、ぽつん、と見える“赤”。

雪に覆われた深紅の薔薇かと思ったが、そうではない。


(血の、匂い……?)


ヒトより敏感な私の鼻が、ふわり、とその正体を嗅ぎつけた。目印のように道を外れて森の奥へと続く跡に、思わず体が動く。


雪を踏みしめ駆け抜けた先、ひらけた雪原に出た瞬間、目の前の光景に息が止まった。


純白の粉雪に埋もれるようにして倒れているのは、漆黒のコートだ。

その周りの雪が、広がる鮮血で染まっている。

体に舞い落ちる粉雪に包まれていく青年は、まるで精巧に作られた人形のように微動だにしなかった。


「ひ、人?!」


後から駆けてきたミックが、腰を抜かしてへたり込む。

私は素早く彼に駆け寄り、そっとその冷たい首元に手を添えた。すると、弱いが、脈は確かに指に伝わる。


「ミック、私の荷物を頼んでいい?」


「え?」


返事を聞く間も無く、青年の腕を肩に回す。


「彼を修道院まで運ぶわ。この人はまだ生きてる…!」


これが私の彼の出会いであり、そして、神のいたずらとも呼ぶべき二人の契機であった。