呼吸さえ、忘れた。

信じられない。

これは夢か。

自分に都合のいい夢でもみているのか。


ーー頬を撫でる風。足の裏に伝わる大地の感触。

その全てが、現実であることを告げている。


(夢じゃ…、ない。)


「シド…、私…っ…!」


「っ!今言うな、ばか!」


もが!、と私の口をシドの手が塞いだ。

驚きに目を見開くと、彼は複雑な表情でぼそっ、と呟く。


「…どーせ、“私はタンリオットの嫁になる”って言うんだろ。分かってるから、まだ言うな。」


「…!」


はっ!と、した。

今、私の頭の中にタンリオットの存在はカケラもなかった。考えていたのは、シドのことだけ。

目の前の彼だけが、私の心を埋め尽くしていたのだ。


ーーつぅ…っ。


優しく私の頰に撫でるシド。

流れるように首筋に触れた彼の指に、どきん!とする。

戸惑いと緊張の中、彼を見上げると、わずかに熱を帯びた綺麗な碧の瞳が、まっすぐ私を映していた。


「…せめてこの“跡”が消えるまでは…“俺のもの”だって思わせてくれてもいいだろ…?」


「!」