ヴァンパイア夜曲


(まずい、逃げてー…っ!!!!)


そんな私の願いも届かず、兄はまばたきの間に私の前から消えていた。

はっ!と息をした瞬間、視界に映ったのは深紅の瞳で拳を振り上げるルヴァーノと、目を見開くシドの姿。


ーーゴッ!!!


シドの腹部を直撃する重い一打。

吹っ飛ばされるシドを思わず抱きとめたランディも、一緒に飛んでいく。


ドォン!!!


広場の壁に勢いよく打ち付けられる二人。

砂埃が舞い上がり、レンガ造りの壁の破片が地面に降った。

すると、一瞬でシド達の前に舞い降りたルヴァーノが、まるで人一人を殺ってきたかのような形相で低く唸る。


「…シド。お前、俺の妹に手ぇ出したのか…?」


「出されたのは俺だ…!!」


言い返す彼を見て、ほっ、と胸をなでおろす。

ダンピールであるランディが受け止めたお陰で大きなダメージは負っていないようだ。シドの背中からひょっこり顔を出すランディも無事のようで、二人の喧嘩にいたたまれない顔をしている。

すると、くるり、とこちらを向いたルヴァーノが、険しい顔で遠くから叫んだ。


「レイシア!こんな男の血を飲むのはやめなさい!この世にはヴァンパイア用の血パックも食料もいっぱいある!それでも飲むなら、せめて女の子にしなさい!異性間の吸血はお兄ちゃんが許しません!」


親よりも堅苦しい鉄の砦が私の前に立ちはだかる。

あぁ、もう、恥ずかしいよ。多分兄の部下であろう女性団員もいるのに!

薔薇色の髪を一つに縛った彼女は、怪訝そうに目を細めて広場を見つめているようだ。