思い返してみれば、兄は昔から“こう”だった。
次期王として英才教育を受けていた兄は、幼い頃から頭のキレが良く、城の兵に混じって武術を習っていた時も飛び抜けて上達が早かった。そして、ひとたび社交会に出れば、その整った容姿から綺麗なお姉さんが次々と寄ってきていて、まさに完璧な王子様だったのだ。
しかし、そんな女性たちには目もくれず、兄はやたら過保護で、いつも私の側に居た。
そう。
彼は“妹想い”なのだ。引くほど。
城を出て、子どもじゃなくなったからこそ分かる。
おそらく、世間一般ではこう言うのだろう。
「…“シスコン”…」
「しーっ!シド、聞こえるよ…!!」
遠くの方でこちらを見て何やら言っている二人の仲間が見える。
会話の内容は想像に容易いが。
その時、はぁ、と呼吸をした兄がわずかにまつ毛を伏せた。涙を拭いた瞳が、キラキラと小さく光っている。
「…ごめんね、レイシア。大事な妹を置いて出て行ったりして…」
「…!」
「…でも、俺は、どうしても連れて行けなかったんだ。…ノスフェラトゥの先にある“復讐”に。」
苦しそうで、悲しげな表情。
こんな顔、初めて見た。
修道院で最後に私の頭を撫でた兄は、笑っていたから。
きっと彼はこうやって、私に見えないところでずっと苦しんできたんだ。
「…俺のことなんて…もう、忘れていると思ってた…」
ぽつり、と聞こえた兄の声。
10年前。
血に染まった城を駆け抜けて、テラスから森へと飛び込んだあの“惨劇の夜”。父と母から離れまいと泣く私を抱いて走ったのは兄だった。
私が修道院で人の温かさに触れていた頃、復讐を誓って、一人、軍隊の門を叩いた兄はどんな気持ちだったのだろう。
「…忘れるわけ、ないよ。私たちは、この世界に残された…、たった二人の“家族”なんだから。」



