それからはもう何を話したかあんまり覚えていない。

 企業城下町藤田市の本家本元電機メーカーFUJITAの御曹司と、連絡先を交換してしまったことと、さらに家に招待されたことが、愛里の頭の中をぐるぐる回り続けている中、打ち上げ飲み会はお開きの流れになった。

 店の外に出ると、街は賑やかで、行燈看板が夜を明るく照らして、東京をぐつぐつ煮詰めたような喧騒に包まれていた。

 そんな光景さえ、今の愛里には現実離れして見える。

 風もなく蒸し暑いことさえ、VR体験でもしているかのように錯覚めいたように感じた。