まずは人が少ないうちに大きな看板を立ててしまう。その後、畳まれたまま長机の上に置いてあるパイプ椅子を下ろし、宣伝パンフレット類を片付け、作品を並べていく。一日だけの即席本屋さん。売り物は自分の描いた作品。

 愛里は小学生の頃から少女漫画家になるのが夢だった。
 自分の考えた物語で、読者を思いっきり楽しませたい。
 それを仕事にするために、高校生になった頃には漫画家新人賞に応募するようになった。大学も表現文化を学べる学部に入り、さらには漫画研究部に所属して漫画を描き続けた。
 しかし拾ってくれる出版社はなかった。大学は卒業し、漫画とは関係のない小さな会社に就職もした。仲間達も社会人になり、漫画の道は諦めて家庭を持つ者も増えていく。

 でも愛里はまだ真剣に漫画を描いていた。
 やっぱりどうしても漫画家になりたかった。
 仕事が終わったら漫画を描いて新人賞に投稿する日々が続いた。

 落選に次ぐ落選、ここがダメあそこがダメ、直しても直しても、全部ダメ。
 自分がどんなに心を込めて描いても描いても、特に誰も喜ばない。そもそも読んでくれる人が存在しない。審査員に落とされるために描いているのだろうか? なんて心は荒み、自分の漫画は駄目なのかと自信をなくしたりもした。自信をなくしたら、本来描けるものも描けなくなってしまう。

 負のスパイラルに陥り、このままではまずいと、打開策を模索した。
 純粋な作品発表の場が必要だと思った。

 そして辿り着いたのがこのコミケだった。