涙が引いてから、尚貴の家に戻った。

 なるようになるから、安心して焦らず今を歩けばいい。両想いだから大丈夫だと、郡山が勇気づけてくれたことで、きっとそうだと、愛里も根拠なしに思うことができるようになって。

 その日、漫画制作に精を出すことまでできた。
 郡山のおかげだ。
 
 翌日、愛里は仕事を定時であがると、その足で尚貴の家へ向かった。呼び鈴を鳴らすと、郡山が出た。

「お疲れさん。坊ちゃんはまだ仕事だけど、中で待つか?」

 郡山はいつものスーツに黒のウエストエプロンをかけている。現在何か調理中のようだ。

「うん。お邪魔します」
「はい、どーぞ」

 気心知れた仲だし、尚貴の不在時にも郡山はいるから、先に仕事終わったら来ていていいからねと尚貴は言ってくれていた。今まで愛里はそれに甘えたことはなかったが、もう一度郡山とおしゃべりがしたくて、この日は先に来てみたのだった。