尚貴から特に連絡はなく、翌日には何事もなかったように愛里は彼の家に行った。
 尚貴もやはり、何事もなかったように、愛里を迎えてくれた。

「いらっしゃい、今日もがんばろ!」
「うん! 目指せ、デビュー! だね」

 そうして、いつも通りにちゃぶ台の前に座り、漫画の続きを描いた。

 カリカリ、シャッシャと愛里の鉛筆の音が響く。
 ちゃぶ台を挟んで正面からは、液晶を叩く静かなペンの音。
 時折、郡山がお茶を淹れてくれて、冷めたら温かいものに取り替えてくれる。

 いつもと変わらない時間が過ぎていく。
 ……ように見える。

 でも本当は違う。

 尚貴が前より、作品に集中しているような気がした。
 まるで愛里の存在をこの場から排除するかのように。

 ちゃぶ台の向こう側に、見えないバリアを感じる。

 僕たちの間に甘い時間はもう二度と流れないのだと教えるように。