もともと、御曹司の尚貴とは住む世界が違うと思っていた。

 煌びやかな生活には、憧れを覚えたし、
 それから一般庶民の自分がそこにいることに負い目を抱いたり、
 もっといえば、世間知らずのお坊ちゃんなところにはちょっとした妬ましさや軽蔑まで感じたことだってあった。

 でも、尚貴が家出をして、そういったものがなくなって、
 そうしたら彼はやっぱり無力で、世間知らずで、甘ちゃんで、
 でも、そうなって初めて、彼の本当の強さや美しさ、優しさ、覚悟を、愛里は理解できた。

 だから、好きだと心から思ったのに。

 全部引き受けたいと思ったから、告白したのに。

 それなのに、幸せにできないから付き合えないだなんて。

 どうしてそんなこというの……?

 愛里は鞄に入れたままのスマートフォンを思い出して、でも、そのままにして目を閉じた。
 通知を見るのが怖いから。

(明日……なおさんち、行っていいのかな。いい、とは思うけど……。なんだか行きづらくなっちゃった)

 好きだなんて、言わなければよかったのだろうか。

 あのままの関係を続ける方がよかったのだろうか。

 わからない。