愛里は小さく呼吸をした。
 息が止まっていたらしい。

 うん。
 こちらこそ、こちらこそありがとう……。

「でも」

「え……?」

「ごめん、エリンギちゃんの想いには、答えられない」

 すうっと、熱が冷たさに変わっていく。
 氷になったように、血の気が引いた。

「なおさん……どうして……」

 断られた……?

 うそ、だよね。

「エリンギちゃんとは付き合えない」
「そんな……」

 断られるなんて、そんなことだけは、思っていなくて、
 頭の中が真っ白になった。

 今さら告白なんて、要るかな? くらいに思っていた。

「どうして……?」

 目に映るもの全てが褪せていく。

「僕は夢を追うんだ。だから、余裕がない」

 尚貴の瞳は、凛々しくなりすぎていた。痛いほど。

「僕はもう、自分の無力さを理解している。それでも、なにを取るか考えたら、夢だった」

 愛里は、力なく、視線を落とす。
 そんな、そんなこと……?

「なにを取るか、なんて……もちろん、夢が優先なのはわかるよ。わかるけど、それでも……」
「エリンギちゃんを幸せにしたいと思ってたんだ。けど、現実は、厳しいんだね。よくわかったよ。それでも、夢を追いかける。僕はそう決めた。そんな、今の僕では、エリンギちゃんと付き合うことは、難しい」

 袢纏姿も、穴を縫われた靴下も、愛しいよ? なおさん。

 尚貴は力なく首を横に振る。

「僕なんかじゃなく、もっとふさわしい人と出会うべきだ。エリンギちゃんは」
「そんなことない……。そんなことないよ……っ!」

 思わず袖をつかんで叫んでも、尚貴は黙って首を横に振る。

「付き合うことは、できないよ」

 ――どうしてわかってくれないんだろう。

「僕は夢を追うんだ」