尚貴が、実家に戻る気がまるでないことがわかってからも、何も変わらずに創作に明け暮れる二人の日は続いていた。

 液タブに向かって真剣な顔でペンを走らせる彼の後ろ姿。髪の一本一本まで綺麗で華やかで、どこか儚げだ。

「どうしたの? エリンギちゃん。そんなに僕のこと、見て」

 手を止めて振り返る彼に、愛里は慌てて首を振る。

「いや、ごめん。なんでもない」

 画面に反射していただろうか。愛里も作業を再開しようとして、でも、なんとなく手が止まってしまう。

 尚貴はもともと、現実味がまるでないような人だった。

 スーパーお坊ちゃんで、性別不明みたいな浮世離れした見た目で、行動もとんちんかんだし、掲げる夢だって、同じ夢追い人の愛里だからこそ共感できるが、一般的には現実味がない夢だ。

 でもそんな彼が、現実の中で生きていく。