いいわけがない、と思っている愛里に対して、ぽつりと尚貴は言った。

「でも僕は、佳作を取った作品より、前の方が好きだな。エリンギちゃんの作品」

 今度は愛里の方が黙った。
 それを言われると……何も言い返せなくて。

 愛里も、自由に描いた前の作品の方が、好きだという自覚がある。
 本当は、好きなものを描いて評価されたかったという気持ちがある。

 だけど、漫画家として生きていこうと思ったら、わがままばかり言っていられないから。

 ――いや、わがままを叶えてしまう手段が、一つあるか。

「ならさ……なおさん、やっぱり、お父さんともう一度よく話した方がいいんじゃないかな?」

 一般庶民の愛里と違い、御曹司の尚貴には強力な後ろ盾があるのだ。