「でも、もう少し譲らないと、たぶん受かんないよ」
「受かりたいけど、捨てたくない」
「うーん……」
尚貴は意外と頑固な作家だった。
「それだとデビューなんていつになるか、わからないよ」
それでも、現実は現実として厳然とそこにある。
「デビューしないと、誰にも読んでもらえないよ」
甘やかしてはくれない。
「漫画を描いてお金を得ることだって、できないんだよ」
そのことの意味が、尚貴にももうわかるだろう。
「それでもいいの?」
疲れた顔で、尚貴は黙り込んでいる。
今日もいつもと同じ仕事を終えて、いつもと同じようにここに缶詰めになっている。
どんなに漫画を描いたって、誰にも読んでもらえないまま、お金にもならないまま、今の暮らしを続けるだけでいいのだろうか?



