その時、
「尚貴様」
 という凛とした声が響いた。

 目の前に人がいることに気付いて、愛里ははっと顔を上げる。
 そこには黒いスーツを着ている、愛里より一回りくらい年上――三十代ほどの、いかにも仕事人という感じの有能そうな男が一人立っていた。

 お客さん……?
 この人の知り合い……?

 尚貴様と呼ばれた隣の彼は、さっきまでとは違ういたずらが見つかったような、バツの悪い表情で、「郡山(こおりやま)……」と、つぶやいた。

 このスーツの人、様って言ってるし、隣のサークルさんは何かのお客様? なのかしら?

「このような場所に、お独りで向かわれるのは危険ですと、おわかりいただけませんか。すぐにそちらに回ります」

「……来るなって言ったじゃないか」
「そうは参りません」

 ……ていうかもしかしてどこかの国の王子様ですか?