仕事の間に入ったLINEによると、アパートは見つかったようだ。最低限必要な家具も買ったそうなので、愛里も仕事が終わったら手伝いがてら様子を見に行くことにした。

 尚貴は愛里の家のほど近くに居を構えることにしたらしく、歩いて五分もかからなかった。尚貴の急なご近所さん化に戸惑いつつ、少し寒くなってきた夕方六時過ぎにスマートフォンのマップアプリを頼りに住所の地点まで行くと、なかなかのオンボロアパートを見つけた。

 ここか……。

 薄汚れた壁がひび割れている。洗濯機も外に置いてあるし。

 カラスもおうちに帰る黄昏時なのも相まって、微妙にセンチメンタルな気分になった。

 ビーーーーという時代錯誤なチャイムを押し、
「来たよー! なおさーん」と顔を出す。

 こんな場所でも変わらぬスーツ姿の郡山がドアを開けてくれて、その後ろから喜び勇んで駆けてくる尚貴の姿――

「エリンギちゃん! お仕事おつかれさま!」
「なっ、その格好はいったい……!?」

 に、衝撃を受けた。

 なんという格好をしているんだ、なおさん……!

「もうそろそろ秋だし、少し寒いでしょ? だから、暖をとるためだよ! ……てへっ、なんてね。実はね、憧れてたんだ。こんな漫画家に」

 そこには御曹司の袢纏(はんてん)姿があった。

 袢纏!?

 「♯」柄のちりばめられた紺色のTHE・袢纏をもこもこ着た、長身痩躯の美人なおさん。

「あ、あは、は、そう……」

 楽しそうで何よりです。
 ていうか、まだそんなに寒くないけどね。