それからみっちり一時間半、なおさんとの食事が始まるまでしごかれた。
 それはそれは気の抜けない、濃い時間だった。音を上げたりもした。

「もう嫌だ!! もうレディになれなくてもいい!!」
「ん、それじゃ御曹司に恥をかかせ続けていくんだな。それでもいいんだな。今おまえが決めたことだからな」
「やだー!」
「じゃあやれ!! はい始めから!」
「ひぃぃぃ」

 けれどピリピリとした緊張感は、尚貴との甘々レッスンとはまるで違っていた分、メキメキと上達するのを感じた。

 そのおかげで……

「すごいすごい、エリンギちゃん! さすが、もう立派なレディだよ!」

 なおさんとの食事も、自分でも別人のように振る舞うことができた。
 自分の世界観が変わるほどの、なかなかのご令嬢ぶり。

「あ、あはは……ありがとう! ありがとうなおさんありがとうもっと褒めて」

 だから食事の間は、漫画そっちのけで尚貴にべた褒めしてもらった。
 郡山が厳しかった分、尚貴には思い切り甘やかしてもらう。
 郡山とはなるべく目を合わせない。
 粗はたくさんあったのが、自分でもわかっていたので……。