愛里が沈んだままでいると、尚貴はようやくぱたんと漫画本を閉じて言ってくれた。

「そうだね。マナーを覚えないとエリンギちゃんが楽しく過ごせないっていうなら、それは僕だって協力しなくちゃいけないってことだもんね。わかったよ」

 それは愛里のことを心底思うが故の配慮で。

「ありがとう、なおさん」

 やっぱりなおさんは、優しい。

 よし、頑張ろう。

 まず、一通りのレクチャーを尚貴から受け、覚え、そして実践していく。

 椅子の前に右から入って……
(あ、ちがう、左だ)

 テーブルに前ももが付くように立つと、給仕者が椅子を押してくれるから……
「わっ」
 しまった。早かった。
 椅子がふくらはぎに当たるまでじっと待たないとだめだった。

 間違えるたびに、尚貴はいいよいいよ大丈夫だよって励ましてくれる。