さっきとはまた違う廊下を歩いて階段を下り、食堂へ行く……と思ったら別室に案内された。音楽室だそうだ。バレエやダンスの練習なんかもできそうな大きな鏡があり、隅にはグランドピアノが置かれている。その部屋の中央に配置された小さな机が違和感を放っているが、きちんとテーブルクロスまで掛けられ、カトラリーも調えられている。

 食堂は現在食事の用意で大忙しということで、模擬用に一部屋用意してくれたらしい。ご希望に添えず申し訳ありませんと郡山には謝られたが、たしかに、食事の準備で殺伐とする中、客人がマナーレッスンなんてやっていたら気を遣わせてしまうだろうし、そうしてくれるのは一向に構わなかった。実際にここで食事をするわけでもないし、練習場って感じだ。

「テーブルマナー予習してきたんだけど、全然身についてない」
 愛里が尚貴にぼやくと、笑って言う。
「いいんだよ適当で」

 たしかに、早く戻って漫画の話もしたい。
 尚貴は読みかけの漫画本を持ち込んで、読んでいる。