メイドが冷たいお茶を出してくれて退室すると、愛里はどうしたものかとそわそわ困った。

 異性の私室にお邪魔するなんて何十年ぶりだ。
 私室っていうレベルじゃない広さだけど、それでも私室は私室だ。
 手持ち無沙汰に固まっていると、沈黙が痛い。
 ソファに向かい合って座ったまま、何を話せばいいというのか。
 
 すると尚貴が愛里から買った漫画を広げながら提案してきた。

「食卓の準備が整うまで、漫画の批評会しない?」

 最近、創作をさぼりすぎて自分で自分のことがむず痒いくらいだった愛里にとってそれは願ってもない提案だった。

「ああそれいいね! やろう!」

 こんなお城みたいなところに来て、漫画の切磋琢磨ができるなんて思ってもみなかった。
 ありがたい。

 異性と会っている間は仕事をしてはならないと決まっているわけではない。仕事というのは愛里にとって漫画を描くことだ。お金をもらっているわけではないけれど、夢を追う以上は仕事と思うべきだという矜持が自分の中にある。

 好きな人と一緒に好きな仕事をする。それって最高では?