愛里が悩んでいると、助手席に座る郡山が振り向き口を挟んできた。
「尚貴様、もう夜も遅いですし、愛里様をお返しになってはいかがですか」

 助け船だった。

 だがすかさず尚貴は不満そうな顔になる。
「む。郡山、またそうやって引き離そうとするの?」

 違うんだ、なおさん。と、愛里は思ったのだけど、言い出せない。

「申し訳ありません。しかし、レディの体力をお考え下さいませ」
 郡山は、あえて取って付けたようにそう諭す。

「う……ん……?」
 尚貴がちらりとこちらを見る。

 愛里は申し訳ない気持ちになりつつも、縦にも横にも首を振らず黙ったままで答える。

「そうだな。ごめん、エリンギちゃん。もう遅いね、今日は家まで送るよ」
 尚貴は自ら察して、行先を変えてくれるようだった。

 愛里は慌てて言う。
「ううん! すごく行きたかったんだけど、そうだね……。私も、体力がもっとあったらよかったんだけど、残念ながら限界かも……。せっかくなら元気な状態で行きたい……な。無理してでも、行きたいけどね」
「無理しちゃだめ」
「じゃあ、今日は、帰ろうかな……」

 尚貴の指示で、行き先が変更され、車はUターン。