前を歩く人が、自分のスペースの前で少し歩を緩めるだけで、その人の顔をじっと見てしまう。もし、立ち寄る気配があったら、すぐに対応できるようにと。でも、多くの場合それは空振りに終わる。それだけじゃなく、目が合って気まずくなって逃げられてしまったり。

(しょうがないよねー……)

 十二時を回り、愛里の売上は二冊だった。その内訳は、知り合いの漫画創作仲間二人による購入で、自分も後で買いに行くつもりのいつものメンバー。お互いの漫画を読み合って、意見を交換し合う、夢追い仲間であり、コミケの後、彼女らと打ち上げ飲み会も予定していた。大事にしたい仲間達だけど、つまりは内輪の売り上げということだ。