クロスのかかったテーブルに案内され、尚貴が席に着く。愛里もスタッフが引いてくれた椅子に着いた。尚貴の真似をして、皿の上に置かれていたナフキンを膝にかける。照明はほの暗く、テーブルの上のカトラリーがそっと輝く。とても上質な雰囲気が漂っていて、どきどきした。

「料理はコースだけど、飲み物はどうする? 貴志兄さんのこともお詫びしたいし、ごちそうするから、好きなもの飲んでね」
「そんな、でも」
「いいのいいの」

 最初から出してもらう気満々じゃいけないと思って愛里はメニュー票を手に取る。光沢のある分厚い厚紙に印字された一杯あたりの値段を見たら、目玉が飛び出そうになった。

 えっ。これって一杯の金額? 飲み放題付きの居酒屋コース一人分の金額じゃなくて?

 愛里は悟った。ここ、一周回って、庶民にはよくわかんないくらい高いところだと。世界の巨匠ピカソの絵が下手くそに見えるみたいな。だってワイン一杯でこの金額って、コース料理は一体いくらになるの!?
 
 ごめんむりだ。大人しく出してもらおう。