本社ビル廊下ですれ違う人はみな、はっとした様子で頭を下げていく。
 このFUJITAの社内で、藤田一族の御曹司とすれ違うとこうなるのか。ネットに尚貴の情報は挙がっていなかったが、FUJITA社内ではちゃんと名が通っているらしかった。常に視線を感じたし、そっと道を空けられ、遠巻きに指をさされている。

 エレベーターを降り、本社ビルを出る頃には時刻は午後三時を回っていた。自動ドアを通ると、めらめらと暑い空気に包まれる。広い敷地を迷いなく歩いていく尚貴に、愛里は訊ねてみる。

「なおさんは、どんなお仕事をしているの?」

 これからどこに向かうのだろう。どこまでついていっていいのかな?