丸井社長が応接室を出ていったあと、さて遊びにいこうとにっこり微笑む尚貴に待ったがかかった。

「尚貴様、仕事はどうしました?」
 お目付け役の郡山である。

「……わかってるよ」
 尚貴は顔を曇らせる。
 このあと時間あるかと聞いてきた尚貴はよっぽど自由な立場なんだろうと愛里は思っていたが、どうやらそういうわけではないようだ。

「実は、僕の方こそ、すぐに遊びに行こうというわけにはいかないんだ。ごめん」
 尚貴は待っていてほしい旨を頼んできた。愛里は帰る足もないし、言われるままにするつもりだったが、「フジタの敷地にはいろんなものがあるから、退屈しないと思う!」と、楽しそうに言われて、鞄にしまったパンフレットを思い出す。あれだけの広さだ。待ち時間内ではきっと散策しきれないだろう。楽しみである。