愛里は家に着くと取るものも取らず階段を駆け上がり、自分の部屋に置いてあるキャリーバッグを二つに開いた。

 荷物の片付けは後回しに、尚貴から購入した薄い漫画本を取り出す。淡い色使いだが色が何色も使われていてステンドグラスのようなカラー表紙絵に、タイトルの『最果て丘の小さな家』という黒文字ロゴがやや浮いている。パラパラとめくると、ちょっぴり抽象的な魔法世界の物語が広がっていた。描き込みがとにかくすごい。ちょっとしたコマにも背景やら小物やらがびっしり詰め込まれていて、洋服の飾りつけや皺の一本一本に至るまでに美学を感じる。物語の意味はいまひとつわからないが、目で楽しむ作品って感じで本棚にしまっておきたい。