気付くと、颯の周りは誰もいなくなっていた。

黒いキャップを被ったその怪しい人物はこの時を待っていたと言わんばかりに、折りたたみ式のナイフを取り出した。

「!」

そして、そいつは颯のところまで一直線に走っていく。

「颯、危ない!」

私はそいつに体当たりをかます。

「ぐっ……!」

そいつは呻き声をあげながら地面に倒れる。

「ひ、ひかり!?」

「颯、今こいつが颯を襲おうと…!」

私はそいつを捕まえようとしたが、逃げられてしまった。

「逃げられちゃった……」

「大丈夫か、ひかり。怪我とかしてないか?」

そう言って、颯が手を差し出してきた。

私はその手を受け取った。

颯の手、あったかい…。

いつぶりだろう、このぬくもりを感じたのは。

「うん、私は大丈夫。颯が無事でよかった」

「ああ…。俺も、ひかりが怪我してなくてよかった…。ていうか、つけてたんだ」