柚月はポツリ
「覚えてる」
「え?」
「覚えてるよ、私」
須長くんを見つめた。
「おばさんが、二人のこととっても愛してたの覚えてる」
柚月の中でも忘れかけていた。
あの言葉を聞く前は、優しさを感じさせてくれるような温かい人だった。
「……うん」
「今もおばさんの中にはその思いはある。
宏くんが感じられなくなってるだけだよ、きっと。
悪いところだけを見ちゃうと、そういうこと感じられなくなるって、私も今気づいた」
そう言われ、瑞樹が産まれた日の喜びや一緒に過ごした何気ない日々が思い起こされる。そこには二人だけではなく、見守る父と母がいた。
忘れていたわけじゃない。
自分も母親同様に瑞樹が死んだことを引きずっていただけだと、自覚した。
顔を上げると太陽がそこにある。
瑞樹くんの命もきっとそういうもののように感じる。
心を広げれば、気づけるものが増えていく。
今にも、日向ぼっこする彼の笑い声が聞こてきそうだ。
隣で須長くんは、静かに涙を零した。