お店の奥の扉を開けて中に入る。



おじいさんは、

手狭だがすまんなと言いながら、

居間に俺を通した。



おじいさんはお茶を入れてくれた。



「話し出したら長くなると思うが、

大丈夫かな?」



「はい。聞きたいです。」



俺のその言葉を聞くと、

おじいさんは思い出しながら話してくれた。




「あれは三十年くらい前だ。


娘は笑海(えみ)といってな、

笑海の笑顔は、

それはそれは可愛かったんだ。



目が赤くてな、

笑海は嫌だったようだが、

わしは凄く綺麗だと思っているよ。





だが、

笑海の5歳の誕生日。

その日二人は亡くなったんだ。




その日二人は車で海に出かけた。


わしは外せない仕事があって、

夜に合流してお祝いしようとしていた。



だが、笑海と出会ったのはそれが最後だった。


途中の崖で妻の車が落ちてしまったんだ。



わしは家に帰ってもいない二人が心配で電話した。


でも繋がらなかった。


わしは車で海へ行った。



その途中、

崖の所にいた警察から、

車が落ちたことを知らされた。



わしは警察に自分の顛末を教え、

見つかった時に連絡をくれるよう頼んだ。



わしも一人で探し回ったが二人はいなくて、

落ちた車は妻のだろうと思った。




そんな時、

車と妻の遺体が出てきた。


だが、笑海の遺体は見つからなかった。



警察からは、

子どもは軽いから波に攫われたんだろうと。



妻は遺体を見たからか、

死んだと納得がいった。



でもわしは、

笑海のことはどうしても諦めきれなかった。



だから、

笑海が好きなものを見えるところに並べて置いておいた。



いつの日か、

ひょっこりと出てくるんではないかと、

そう思ってな。




…わしの話はこれで終わりだ。

すまんな、やっぱり長くなってしまったわい。」




話し終わったおじいさんの目には、

涙が溜まっていた。



俺はこの話を聞きながら、

詩笑さんのことを思い出していた。