クラス委員がリューイチを呼んだ。
「よしっ! 今年もいい成績を出すか」
 中学は男子バレーボール部で主将を務めたリューイチが、肩のストレッチをしながら垂直板へと歩いていく。
 俺は1歩進み、列の最前になった。
 俺もリューイチと同じバレーボール部だった。
 リューイチのとこは大家族だ。
 リューイチは長男で、大学に行くかどうか悩んでた時期もあった。けど、下と年齢が離れていることもあり、国立大学へ進学することを選んだ。
 リューイチが生徒会に入ったのは、進学を有利にするためでもある。
 生徒会に入る前のリューイチは、少しでも多く勉強するめ帰宅部だった。
 コンピューター部だったケイ以外は全員帰宅部で、生徒会に入るまでは学校や図書館、誰かの家で集まっては息抜きしつつ勉強するのが常だった。
 体育会系の上下関係が元々好きじゃない俺は、表向きには勉強を理由に、本当はリューイチがいないならと帰宅部を選んだ。
 俺の場合、真面目なリューイチとは違い、すぐ下にマモルたちが入ってきて、少し欲がでた。
 気の合うメンバーで本当にバラバラになってしまう前に学校生活をエンジョイしたい。そう思って生徒会に入った。
 もちろん、進学に有利になることも考えたが、俺にとってそれは二の次だった。
 去年度の後期生徒会に、俺とリューイチと仁美ちゃんとマモルが入り、今年はヒロとケイも加わって、文句なしのメンバーとなった。
 そこに、ニコちゃんが加わり、オマケで谷地ちゃんと見崎ちゃんも加わった。
 このメンバーで、最初に挑むのが一見地味な大イベント、来週の木曜日の放課後に予定されている予算会議だ。
 通称、予算会。
 部活動をしてなかったから、その恐ろしさは噂でしか知らない。
 聞くところによれば、そこでは文化部と体育部がののしり合い、弱小サークルの潰し合いが始まり、成績不振な部への攻撃はもちろん、活動が少ない部は意見すらさせてもらえないと、壮絶な戦いが繰り広げられるらしい。
 ニコちゃんたちには、最初の仕事として1年生歓迎会の反省会を見学してもらったけど、予算会に比べたらお遊戯だと誰かが言っていた。
 すでに、各部活の予算会代表者は闘志を燃やしたり、恐々としている状態だ。
 俺としては、そんなバトルを仕切れるかどうか、生徒会の技量が試されるわけで、ニコちゃんがメンバーに加わるまでは楽しみでしかなかった。
 けど、今は怖い。
 予算会を見たニコちゃんが、仕事を続けられないと生徒会を去ったら。
 そしたら、俺とニコちゃんとの接点がなくなってしまう。
 ああ、考えるだけで憂鬱になってくる。
 リューイチが垂直版の位置を合わせ、指にチョークの粉をつけた。
 俺はやっと、リューイチと仁美ちゃんが告白を渋る気持ちがわかった。
 もしかしたら振られるかも。
 告白したことで距離ができてしまうかも。
 そう思うと、先へ進むのが怖くなるんだ。