つい声を荒立たせてしまい、重々しい空気が充満する。

そのとき、ちょうどエレベーターが私の部屋がある五階で止まったので、扉が開き始めてすぐにこの箱から逃げ出そうとした。

しかし、腕を掴まれたかと思うと、背中からしっかりと抱きすくめられてしまい、私は息を呑む。


「……だったら、そんな生ぬるい関係からは抜け出せばいい」


抑揚をなんとか抑えた調子の声が耳元で呟かれた、次の瞬間──扉が閉まると同時に後ろを向かせられ、彼の唇が私のそれを塞いだ。

柔らかな衝撃に、目を見開く。

嘘……心臓、止まりそう……! 甘い毒を盛られたみたいに、身体中に熱いなにかが広がっていく。

いつか欲しいと、心の片隅で願っていた、耀のキス。これが好意の表れなのかなんなのか、今はまったく考えられない。

ただただ彼の温もりを与えられるがままになっていると、九階に到着したことを知らせる、今のこの状況に不似合いな音が響き、再び扉が開いた。

ようやく唇が離されたのもつかの間、彼は私の手を引いてエレベーターを降り、どこかへ向かってどんどん歩いていく。

まさか、耀の部屋?