「やっぱり、綾瀬さんは感づいてましたか……」

「そりゃあ、ずっと近くで見てたからね。あなたよりよっぽど長い間」

「すみません」


嫌味を口にする私に、彼女はすぐさま九十度のお辞儀をして謝った。こういうところが面白い。

私は倉橋さんほどプライベートの社長については知らないが、以前から彼には裏がありそうだと薄々気づいていた。

いつもの紳士的で完璧な態度は作られたものじゃないんだろうか、となんとなく思うことがあったのだ。自分がそうだから勘が働いたのかもしれない。


「社長には似たものを感じるのよね。きっと普段の自分を偽っているんじゃないかって。そんな彼なら素の私も受け入れてくれるかもしれない、そう思ったから振り向かせたくて必死だった」


前方に見えてきた本社に目線を向けながら、誰にも話さなかった本心を打ち明ける。自然と話したくなって。


「でも、こんなに胸がギューッと苦しくなったり、気持ちのコントロールができなくて、自分が自分じゃないような感覚に陥ることはなかったわ」