「やっ、ちょっと」

「お願い……僕、もう限界」


吐息混じりの声が聞こえたかと思うと、肩から手がするりと滑り落ちていく。そして、彼は力が抜けたように廊下に倒れ込んでしまった。

突然の事態に、一瞬頭が真っ白になる。


「っ、耀!?」


私は咄嗟に彼の傍らに膝をつき、肩を叩く。彼は目を閉じたままだ。

脳裏には、身体が弱かった昔の耀の姿が過ぎる。さっきから少し調子が悪そうだったし、まさかまた病気かなにかじゃ……!


「どうしたの、大丈夫!? ねぇっ!」


血の気が引いていくのを感じながら、彼の身体に抱きつくようにして必死に呼びかけた。

すると、クスクスと笑う声が聞こえてきて、ゆっくりと彼の瞳が開く。


「心配しすぎ」


穏やかな声でたしなめられ、私はぽかんとする。視線を合わせた彼は、ふわぁと大きなあくびをしてのんびりと言う。


「ここ最近残業続きであんまり寝れてないから、眠くて眠くて……ほんともう限界」

「なっ……なんだぁ」


どうやら、ただ眠かっただけらしい。胸を撫で下ろして一気に力が抜けた私は、その場にへなへなと座り込んだ。