「せっかくだから乾杯しようか」

「あ、はい。乾杯」

「君は、家はこの辺り？」

「えぇ、すぐ近くです」


カチンとグラスを合わせて穏やかに質問に答えるも、この男性はしつこそうだな、という女の勘が働く。笑顔もなんとなく胡散臭いし。

違ったらだいぶ失礼だが、案の定、彼はビールを片手にさらに話し続ける。


「そうか、俺は会社が近いんだ。機械の製造メーカーで働いてるんだけど、最近昇進したから忙しくて」

「すごいですね。おめでとうございます」

「いやぁ、そんなたいしたことじゃないよ。ハハハ」


めちゃくちゃ喜んでるー。

お世辞で褒めた途端、彼はとってもご満悦そうに頬を緩めてビールを呷るものだから、私は失笑してしまった。

さりげなく昇進したことをアピールしつつ、余裕のある男を気取っているつもりみたいだけど、顔に出てる出てる。よっぽど嬉しいのだろう。

その気持ちもわからなくないが、静かに飲みたいから放っておいてくれないかな、と思いつつから揚げを口に放り込む。そんな私の心情に、彼はまったく気づいていない。