言い淀んでいるうちに、耀はヒールを取って戻ってきて、私にそれを持たせる。

次の瞬間、足が浮き、身体がふわりと持ち上げられた。なんと、いわゆるお姫様抱っこをされたのだ。しかも会社の目前で。


「ひゃぁ! ちょっと、耀!?」


私は目を白黒させ、反射的に靴を持っていないほうの手で彼の首にしがみついた。

耀はあろうことか社内に戻っていく。まだ社員がいるのだから、皆に見られてしまうではないか。

私を軽々と抱きかかえている彼に、足をジタバタさせて小声で必死に訴える。


「なにすんの、下ろして!」

「あれ、おしとやかな秘書さんでいなくていいの?」


さらりと痛いところを突かれ、うっと喉を詰まらせる私。そう言われると、確かにみっともない抵抗はできない……。

呆気なく黙らせられ、腕の中で縮こまるしかなくなる私を見下ろし、耀は“いい子だ”とでも言いたげなしたり顔で囁く。


「そう。おとなしく抱かれてて」


……いちいち色っぽい声を出さないでほしい。熱い顔がさらに火照って、彼に宣言された通りに真っ赤になってしまう。

仕方なくじっとしていると、ロビーのソファにようやく下ろされた。皆の好奇の視線をひしひしと感じて、顔を上げられない。