倉橋さん相手だとどうにも素が出てきてしまう私は、口元にだけ笑みを浮かべ、声をひそめて正直に答える。


「別になにも。私が一方的に毒を吐いてただけ」

「昔からそうだったんですか」


苦笑して残念そうに呟く彼女に、口角を上げたまま冷ややかな視線を向けると、彼女はわざとらしく咳払いをした。そして、気を取り直すように口調を明るくする。


「でも、彼は『会えてよかった』って嬉しそうにしてたんですよね? しかも今フリーだとか」

「全部言っちゃってるじゃない、あの人……」


社長がすべて筒抜けにしてしまっているらしく、私は脱力して頭を垂れた。ほんと、彼女にだけは甘いんだから。

呆れ気味の私をよそに、倉橋さんはのほほんとした調子で続ける。


「運命の再会だったら素敵ですね。……と言っても、運命って科学的に説明するの難しいんですが。ラプラスの悪魔がいるとしたら、今後起こることはすべて決まっていると仮定されるんですが、現代には不確定性原理というものもあって」

「失礼いたしました」


突然わけのわからない話が始まったので、私は完全な愛想笑いを浮かべてさっさと背を向ける。倉橋さんは「あぁっ、すみません!」と叫んでいたけれど、構わず廊下に出てドアを閉めた。