「落ち着いた?」

落ち着くわけないでしょう、バカッ!!

瞬時に体が固まり鼻の奥がツンとしてきた。


まずいまずいまずいまずいっ!


背後から男が一歩、踏み出した。
ミイナをのぞき込むようにして顔が近づいてくる。
咄嗟に顔を背けた…が、勢いよく下を向いたせいで目尻から一滴―――落ちてしまった。

「…っ!」

耳元でハルキが息をのむのが分かった。

『もうやだ!!』

ミイナは下唇をグッと噛んで自分の肩に顎を押し付けるようにし、首を縮こませる。
そうしてできるだけハルキの目から表情が見えないように遠ざけた。

『とまれ!止まって!お願い!!』


だがやるだけ無駄だった。
ハルキを忘れるのと同じく、無駄な努力だった。