午後になれば多少は落ち着くものの、さすがにアフタヌーンティーを楽しむ余裕なんてない。
スコーンを頬張る代わりに苦虫を噛み潰しながら、相変わらず電話対応と伝票処理に追われる。
作業はだいぶシステム化されているけれど、いまだにFAXや電話で注文するクライアントはたくさんいるので、机の上はいつも紙束があやういバランスを保っている。

「おっと、あった!」

紙束の中に紛れていた伝票をペラッと園花ちゃんの机に置く。

「ありましたか! これで午前中の分は合います」

伝票はお金と同じ、と叩き込まれてはいても、数が合わないことなど日常茶飯事。

「紙ばっかり触ってるせいで手がパッサパサです……」

園花ちゃんは愚痴をこぼしながらもハイスピードで伝票を数えていく。

「やばい……眠い……。“U”と“V”の区別つかなくなってきた」

送られてきた伝票のデータと、お預かりしている荷物のデータに、間違いがないか確認しながら打ち込むのだけど、心地よい季節が裏目に出て、瞼が勝手に下りてくる。
ぼやける視界では型番の“FV-0028”と“TU-0026”が同じものに見える。

引き取りのトラックが決まっていないお客様に電話連絡している桝井さんが、左手で通話しながら、右手でパソコン操作しながら、第三の手でポケットから“超激スーパークールミント”のガムを渡してくれる。
ありがとうございます、とジェスチャーを返し、口に入れたそれは劇物だった。

「いったあーーい! “クール”が刺さった! ……お電話ありがとうございます。ササジマ物流第三営業所、西永でございます」

私の得意技は、例え机に足を乗せスルメを噛みながらでも、美女然とした声を出せることだ。
眉間に深い皺を寄せたまま、器用に美声を披露したのだけど、内容はあまりうれしくないものだった。
眉間の皺をさらに深くして内線を回す。
コールの間、下柳のヤローに何を言われてもいいように、心の扉を固くロックした。