しょっぱい感じの薬品を飲まされ、お尻に注射されて、柑橘っぽい氷を口に入れる。
確かにおいしくはないけど、思ったより苦痛のない味だ。
戻ったソファーに廣瀬さんはおらず、私は麻酔がちゃんと喉に落ちるように、少し上を見上げてぼんやり座っていた。

始まる前はあんなにドキドキしていたのに、思ったより落ち着いて進んでいる。
廣瀬さんの、あのぼやーっとした顔を見ていると、つられてぼやーっとしてしまうみたいだ。
もし一緒だったのがダビゾウさんだったら、あの目力で緊張感が増したんじゃないかな。

氷が溶けはじめると、聞いていたとおり少し苦かった。
それでもそんなに苦痛には感じない。
ただ、なかなか溶けてくれないだけで……。

喉の奥がぼわーっとしてくるにつれ、麻酔の味が気持ち悪くなってきた。
麻酔を拒否する喉に、ねじ込むように飲み下すと、胃の奥からせり上がった気持ち悪さで、うえっ、となってしまった。

もうやだ! もう帰りたーい!

すでに涙目になっていると、ドアが開いて廣瀬さんが出てきた。
赤い目をして、ぐったり疲れている。
不安げに見上げる私に、それでも笑顔を向けてくれたけれど、さすがに引きつっていた。

「……大丈夫です。死ぬことはありませんから」

なんて、かすれた声で言う。

ええええーーーっ! 死を引き合いに出すような検査なのーーーーっ!?

「51番の方ー、どうぞー」

涙の量を増やす私を、廣瀬さんは最後まで見送ってくれた。