「他人の恋愛を心配してる場合かしら?」

桝井さんが未来人メガネ越しに意味ありげな視線を投げてくる。

「……何か、あります?」

私もFAX発注の打ち込みをしながら、こわごわ聞き返した。

「優芽ちゃん、牧くんに冷たいと思うのよ」

「あ、それ私も思ってました!」

すかさず園花ちゃんも賛同する。

「……そんなことないですよ」

と反論しつつ、実はちょっと自覚があった。
だって廣瀬くんは特別なのだ。
その特別な人を他の人と同じように扱おうと気を使うと、必要以上に冷淡な態度になってしまう。
付き合ってることは隠していないので、余計に周囲の目が気になる。

「付き合う前はあんなにトロットロの声で話してたのに、めっきり事務的よねえ。電話切るのも早いし」

「『回線にアリがたかる』とか、いろいろ言ってたじゃないですか!」

「あんなの冗談半分、やっかみ半分ですよ。まあ、トロットロの声で仕事されたら、また嫌味くらい言いますけどね」

仕事に影響しない適度な距離感を保ちつつ、恋人として接する、なんて器用なことができるはずない。

「牧くんは平気なの?」

「……どうなんでしょうね? そういう話したことないです」

「えー! 大丈夫なんですか?」

ふたりきりの時間を思い出して、顔を覆った。

「だって恥ずかしいじゃない!」

「西永さーん、仕事ー」

手が止まったら、間髪入れずに課長の指摘が飛んできた。

「……すみません」

ふたたびパソコンに向かうと、課長も確認してイスに座る。