「━━━━━はい。━━━━━はい。それは本当にすみません。━━━━━いえ、申し訳ありませんでした。━━━━━はい、━━━━━はい、」

爪が手のひらに食い込むほどの拳を作って、園花ちゃんが必死に耐えている。
しおらしい声音に反して、目は猛禽類に近いするどさがあった。
いつも以上に絡まれているから、ヤツは昨日パチンコで負けたのかもしれない。
私は自分の電話が終わり次第、園花ちゃんから受話器を奪った。

「━━━━━ おい、下柳」

『ああ、優芽ちゃん? 元気そうだね』

カラッとした声は機嫌良さそうで、どうやら単に遊んでいただけらしい。

「若い子いじめてないで、さっさと仕事しなさい!」

内線を叩き切ったら、園花ちゃんから盛大な拍手を贈られた。

「ありがとうございます! 助かりました!」

「あいつ、あれで悪い人じゃないから、言い返しても大丈夫だよ?」

「そう言われてできる人間なんて、ほとんどいませんよ……」

下柳は悪いヤツではないらしい。
何しろ私の悪態を笑って受け入れてる男なのだ。
廣瀬くんも、

『下柳さんね。女っ気のない職場だから、コミュニケーション取りたいんだよ。本当に怒ってるときと、遊んでるだけのときの見分けがつきにくいのが困りものだけどね』

と言っている。
私のことも、

『からかってるんだと思うけど、あわよくば、とは思ってるかも。油断はできないな。何事もどこまで本気かわからない人なんだよ』

ということだ。
『でも悪い人じゃないよ』と付け足していた。

グダグダ文句は言うけれど、面倒見はいいらしい。
取扱の仕事もバンバン取ってくるし、荷主相手でも言うべきことはきっちり言って、乗務員さんの待遇も守るから、信頼も厚いのだとか。

『配車担当って人間関係が重要だから、うまくやれない人はやっていけないよ』

「━━━━━と廣瀬くんも言ってるし、いろいろ目をつぶれば悪い物件じゃないかもよ?」

それでも私は嫌だけど、園花ちゃんの反応見たさに押し売りしてみる。

「目をつぶり過ぎて、全然未来が見えません!」

ははは、だよねえ。
下柳と園花ちゃんに、別々の幸あれ!