二十数年後――。





9月1日。

セミの啼き声は随分と小さくなった。


気温は低くなるどころか、現状維持。



暑さにうなされながら、目覚まし時計が鳴るよりも早く目覚めた。



上半身を起こして、滲む汗ごと目元をこする。


まだちょっと眠い……。



「んん……」



ふと隣から声が漏れた。


視線を落とせば、暑さと戦いながら寝てる旦那の姿。



額にペタリとくっついてる前髪を、軽やかに撫でる。



クセのない髪。

昔、左の毛先を染めていた赤色は、もうない。


だけど、美しい黒は、あの頃のまま。



何年経っても褪せることのない愛しさが、今日もまたあふれて。


たまらず額に口づける。



「ん……萌奈……?」



リップ音で起きたのか、寝惚け眼でぼんやり私を見つめる。


その仕草さえも愛らしい。



「おはよう、みーくん」


「……おはよぅ」



私限定の特別な呼び方は、今も続いてる。


だけど、みーくん呼びは、2人きりの時だけ。

特別な時間だけ。



みーくんは日差しを眩しがりながら、のそりと起き上がった。



自分の髪をわしゃわしゃ掻く、その左手の薬指には、私とお揃いの華奢な指輪がひとつ。


朝日に照らされて、艶やかに反射する。



私を一生守ると誓ってくれた、誓いの指輪。

私の、宝物。