本能的に走り出そうとした私の手首を、誰かが強く掴んだ。
引き戻されるがまま、振り返る。
「また勝手にいなくなる気か」
「……あず、にぃ」
すがるように歪められた、あず兄の目元。
華奢な手首を簡単に鷲掴みにできる骨ばった手は、ひどく冷たく戦慄してる。
あず兄だけじゃない。
せーちゃんも、しん兄も、ゆーちゃんも、バンちゃんも。
皆、私を引き留めたがってる。
行かないでくれ、と言いたげに、必死に見据えてる。
無駄な心配をかけたくない。
重荷になりたくない。
……だからって、ここで引きたくもない。
「ごめん、あず兄」
そう呟けば、あず兄はゆっくり手を離した。
「でも、私、今行かないと後悔する」
「ど、どこに行くんだよ!姉ちゃん!」
「わからない……けど、追いかけたい人がいるの」
皆が真剣なこと、ちゃんと伝わってる。
だけどね。
私も、真剣なの。



