8階に着いた。
病院の独特の匂いが、濃厚になった気がする。
竦む下半身をなんとか起動させて、ゆっくり廊下を歩いていく。
802号室付近までやって来た。
洋館から病院までより、エレベーターからここまでの距離のほうが長く感じたのはなぜだろう。
すると、タイミングよく病室からゆかりんが現れる。
「あ、も、萌奈さん」
「みーくん、どう……?」
「お、お医者さんが言うには、安静にしていれば大丈夫だそうです」
ホッとした。
大事にならなくてよかった。
「みーくんと2人きりになっても、いい?」
「は、はい、もちろんです!ぼ、僕、飲み物買ってこようと思ってたので、ちょうどよかったっていうか……!」
こくこくと何度も首を縦に振るゆかりんが可愛らしくて、ほんのちょっと緊張が解けた。
「ぼ、僕が言うことじゃないですが……み、翠くんのそばに、いてやってください」
それだけ告げると、ゆかりんはペコリと頭を下げ、私の横を通り過ぎてしまった。
もしかして、ゆかりんにも私の気持ちがバレてたのかな。
それとも、ただみーくんを気遣って……?
どちらにせよ、ゆかりんは相変わらず優しくていい子だね。
一人になった病室前。
すぅ、はぁ、と深呼吸を繰り返す。
忙しない心臓を一旦落ち着かせて、扉をノックした。
「……どうぞ」
てっきり寝ているかと思っていたのに、声が返ってきて。
せっかく落ち着かせた心臓が、再びうるさくなる。



