内心ビクビクしていれば、しん兄も「萌奈」と呼んだ。
「しん兄?……わっ」
何かを投げられ、即座にキャッチする。
あ、これ……私がへこませちゃったあず兄のヘルメットだ。
「それ必要だろ?」
「ありがとう、しん兄!」
へこんでるのは一部分だけだし、全然使える。
ヘルメットをかぶろうとしたら。
ふと、ランちゃんと視線が重なった。
黒幕だった気迫はどこへやら。
今じゃ不安げに狼狽えてる。
少しでも安心させたくて、笑顔で一度頷いた。
根拠のない「大丈夫」だけれど、信じなければ幸せは訪れない。
ランちゃんの反応を見ずに、ヘルメットを装着した。
バイクに跨るせーちゃんの後ろに乗る。
「行こう、せーちゃん」
「おう。しっかり掴まっとけよ」
指示通り、腰に両腕をきつめに巻き付ける。
高らかに轟くエンジン音に混じって、
「いってらっしゃい」
聞き慣れた好きな声が、聴こえた。
小さいはずなのに、エンジン音よりもはっきりと。
誰の声か、なんて、問わなくてもわかるよ。
「……うん、いってきます」



