オリの指先が瞼の上を、手のひらが頬をなぞった。
視界が少し晴れる代わりに、オリの手は湿ってしまう。
こぼれかけた雫ごと抱え込んだまま、するりと名残惜しく放れていって、つい。
手を掴んで、留めた。
「オリ……」
これは、さよならじゃないよね?
「萌奈」
いつになく甘く、酸っぱい囁き。
たるんだ涙腺に、それは反則だよ。
「伝えてこい。今、想ってる奴に」
恋しそうに微笑んで、ぎゅっ、と手を握り返した。
“あの時”のように。
けれど、“あの時”とは違う。
季節も、場所も、言葉も、想いも。
「……っ、うん、行ってくる」
これはお別れじゃないね。
始まり、だね。
独り寂しがっていた夜が、明けていく。
あなたを探していた日々は、もうよみがえらない。
それでもいい。
思い出に眠る愛は、これからも忘れはしないから。
どちらともなく手の力を緩めた。
離れる直前にまた強めて、ほどく。
温もりが表面に残ってるのを憂いながら、背を向けた。
まっさらなスタートラインを踏み越えよう。
過去から、今の領域へ。
あなたのためじゃなく、自分自身のために。



