「初めてココに来て、あんたと会った時は、びっくりしたぜ」
片方の口角だけ、持ち上がる。
不格好な嘲笑だった。
「てっきり、とっくに手を引いてる紅組にびくびくしながらみっともなく生きてるんだろうなって考えてたら、全っ然違った。あんたは双雷で、平然と平和に、なんてことなく過ごしてた」
「平和なんかじゃ……」
「俺からしてみりゃ、すんげぇ平和で、居心地よさそうに見えたんだよ!!」
オリの否定を、思い切り遮った。
洋館丸ごと振動させるような叫喚を、誰も止めようとはしなかった。
「紅組にいたあんたなら知ってんだろ?あそこがどれだけ恐ろしくて、危うくて、残酷な場所か。それとも、3年経って忘れちまったのか?」
「憶えてる。たった3年で忘れられるわけがねぇよ。あんなのと比べたら……そりゃ双雷なんか大したことねぇよな」
「ここは生ぬるくて、お人好しで……紅組に居る時よりずっと、気楽だ。息継ぎも、息を殺すのも、する必要ねぇんだからな」
「……そう、だな」
2人の瞼が、そうっと伏せられる。
その瞼の裏には、一体何が映っているのだろう。
花火をした日の無邪気さとは、ほど遠いのだろうか。
「対立前は、ひたすら悔しかった。なんであんただけが幸せになって、居場所を見つけて、自由になってんだよ!ふざけんな、っていっつも思ってた。こっちは肉親もいねぇ、義兄は逃げたあんな場所に、ずっと縛り付けられてたっつーのによ」
元から不格好だった笑みが、だんだんと引きつっていく。



