絶対領域




思い返してみれば、最近になるまで、紅組の噂を聞かなかった。


それどころか、“あの時”一緒に逃げていた私を捜し、脅すような組員らしき人物もいなかった。




「黒幕が紅組ではないのなら、ユーが単独であらゆるハプニングを起こしていたのか?」


「ああ、そうだ」



父親からのプレゼントで、飾り立てられた耳の上。

滑り落ちた、レッドオレンジの長髪。


耳にかけ直そうとした手が、ダランと落ちる。




裏切り者。


この単語が、色濃く浮き彫りになっていく。



紅組の一員として、企んでると思ってた。



でも、そうじゃなくて。


紅組という名前を利用して、ランちゃん自身が私たちを傷つけていたんだ。




チクリ。

心臓に千本のトゲが刺さる。


悲しいなんて、当たり障りない単純な感情じゃ、ちっともそぐわない。




「これは、俺が勝手に始めた、兄弟喧嘩だ」




ランちゃんも、そう。


オリを射抜く、鋭い双眼には。

怒りや憎しみだけでは納得できない、強い念を宿していた。




「物心ついた頃に、俺の名前に『次』の文字が入っていることに疑問を持った。蓋を開けてみれば、案の定、俺には腹違いの兄がいるって教えられたよ」



そんな早くから兄がいるって知ってたんだ。


ということは、もしかしてランちゃんも、オリと同じで産まれた時から紅組の一員として過ごしてきたの?