絶対領域




ゆっくり瞬きをして、正面と対峙する。



久し振りにこんなしっかりと、ランちゃんと向き合った気がする。


……いや、初めてかもしれない。



ランちゃんはいつだって仲間の背中に隠れてたから。



「今日は隠れてなくていいの?あ、人見知り治った?」


「……記憶、戻ったんだな」



冷めた、声音。

きつく見返してくる眼差しも、鋭利で痛い。



私の知ってる、ランちゃんは。



人見知りで、コミュ障で、警戒心旺盛で。


みーくん信者で、興奮すると擬音ばっかりで。



だけど、真っ直ぐで可愛い、中学2年生の男の子……だったのに。



目の前にいるランちゃんは、どれもあてはまらなくて。

別人みたいだ。



「心配してくれてたの?」



悲しくない、わけじゃないけど。


今は嘘でも強がっていたい。




「ランちゃんが私をあんな目に遭わせたのに?」


「…………」


「そもそもあの対立だって、ランちゃんが発端でしょ?」


「…………ハッ」




渇いた失笑を、吐かれた。


開かれた唇の隙間から、八重歯が覗く。



「何テキトーなことほざいてんだよ。記憶失って脳がイカれたのか?」